2025年 大阪・関西万博 ロゴマーク最終候補C案
先日、2025年に開催される大阪・関西万博のロゴマークが5,894点の応募の中から決定しました。
須藤・宮垣の2人で最終候補として一般意見募集にかけられた5案のうちのC案を制作しましたが、惜しくも落選という結果となりました。しかしながら最終5案まで残ることができ、意見募集においても温かいコメントをいただけたことを嬉しく思っています。また、選考に携わった方々や2025年日本国際博覧会協会の方々へ厚く御礼申し上げます。そして、最優秀賞に輝いたE案をはじめ、素晴らしい最終候補を制作されたクリエイターの皆様に敬意を表します。
ここでは、発表された200字の制作意図には収まらない制作経緯や展開案を、協会との契約に基づく範囲でロゴマークに対する考え方とともに公開します。今回公開する制作経緯は、あくまでも一例ではありますが、私たちがロゴマークの制作にどのような考えで取り組んでいるかについて関心を持っていただくきっかけになればと思います。そして、この記事がグラフィックデザインの魅力発信の一助になれば幸いです。 ※本ロゴは制作経緯を協会と共有し、世界186カ国での商標調査をクリアしています
ロゴマークと私たちの考え方
私たちはロゴマークというものについて、いくつかの理想を持っています。その中の1つに、「割り出し図(設計図)をもとに、手順を踏めば誰にでも正しく再現できる明快なかたち」というものがあります。これは、事物を象徴する「しるし」として、その複製や認識の容易さを担保するものです。ただし、公共性の高いものを簡潔な造形に決めることが難しい近年の風潮も理解しています。 そしてさらにもう1つ、かたち自体の美しさだけでなく、それが表す意味や関係性、考え方の美しさも私たちは重視しています。
私たちは、過去から受け継がれてきた日本のグラフィックデザインのスタイルにもその理想に通じる魅力を感じ、それを継承するとともに、さらに先へと進歩、発展させることを目指して尽力しています。
このような価値観をもった2人で、美しく、永く続いていくかたちを模索するなかで、今回のロゴマーク公募に挑戦しました。 まだコロナ禍という言葉を聞くことのなかった、12月のことです。
撮影協力 石田家のみなさま
「紙の輪かざり」というモチーフ
「紙の輪かざり」は大人にも子どもにも広く馴染みがあり、わくわくするようなお祝い事の飾りとして使われます。 みんなで輪かざりを作るときには、一人ひとりの配色や輪の大きさ、作るスピードが違っても、その多様さをそのまま繋げられる特性を持っています。個と個がその形を保ったまま繋がって一つの大きな輪を成す光景は、共創が生まれる体験そのものです。このことは大阪・関西万博のコンセプト「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現にとって重要であり、なおかつ祝祭性を象徴するモチーフとして相応しいと考えました。
さらに、輪が集まって輪を作るという、シンプルな造形ながらも循環・ミクロとマクロの関係性を内包する、サステナブルな構造を持ちあわせているモチーフでもあります。
輪かざり作りのような工作の体験は、目的の実現のために物を作る、いわば一種の実験だといえます。完成したときの喜びはものづくりの原動力ともいえる重要な要素であり、その試行錯誤の途中で新たな発見が生まれることもあります。現代の社会問題が解決された未来社会の実現に向けて、希望と熱意を持って試行錯誤できる実験場としての万博への思いを込めました。
造形の検討
モチーフの輪かざりの表現方法を探ったスケッチです。
結果として、一つ一つの輪を平行投影した円筒形で表現することで、輪かざりの輪を表現することとしました。
モチーフの輪かざりの輪の数や、幾何学的に表現する方法を探ったスケッチです。
再現しやすく、永く残り続けるものを目指し、明快なルールをベースに設計された日本の伝統的な家紋の要素を意識しました。
輪の数は「大」のシルエットが浮かび上がる10個とし、全体としてパーツが細かくなりすぎず、躍動感を生むような造形になるよう検証しました。
ロゴタイプ
ロゴタイプはロゴマークと幾何学的骨格を共通項として持たせ、円と直線が美しく調和するよう設定しました。細身のプロポーションは軽やかであり、凛とした佇まいでロゴマークを支えます。ロゴタイプ単体でも美しく見えるように調整し、ポップにも、上品にも見えるようにしています。
配色
色のコントラストによって立体的な輪かざりとして視覚に立ち上がることで、万博とともにロゴを強く印象づけます。輪かざりというモチーフと、それ自体が持つ多様性を強調するために、少ない色数による配色で造形を引き立たせることを試みています。二色に仕分けて平面と立体を織り交ぜ、「大」の字も象徴的に浮かばせています。この放射状の図案は花、花火、太陽などのモチーフとの親和性が高く、いのちの輝きを想起させます。
今回は表現の挑戦として二色を隣接させたロゴのマニュアルを検討しました。具体的には、フルカラー表示でない場合は濃度(不透明度)100%と50%の二色に変換するアイデアを採用することで、単色でも美しく表現できます。また、モノクロ(2C)での表現においては、各媒体に合わせたハーフトーンの使用を推奨することで、イメージを崩さず表示することができます。
グッズ・メディアへの展開
ロゴマークの展開にも、モチーフの特性を活かしています。リストバンドは入出場の管理に活用することもでき、ひとつひとつの輪が万博の場に集い、思いをつなげる光景を生み出します。街頭広告等への使用においては、万博の開催を伝えるとともに、このロゴが輪かざりとしての装飾性を持っているため、見る人にはわくわく感を、街には彩りを与えることができます。 また、この「輪かざりの輪」のロゴは年齢や文化に関係なく、みんなが作ることができます。各地で制作し、 展開することで、開催の期待感や一体感の醸成につながり、みんなで作る万博の実現の足がかりとなります。
発表後の反応について
一般意見募集は、作品に対し広く意見が可視化される初めての機会であり、新鮮で貴重な体験でした。意見募集の結果、1970年の万博ロゴを彷彿とさせるという意見が想定より多く寄せられ、正直驚きました。形態的に一致している部分はありませんが、五角の骨格や円の輪郭、作図のスタイルが親しいものだったので、そういう印象になったのだと思います。目指していた過去の継承と未来への進歩がうまく機能してくれたのだと、嬉しく思っています。
さいごに
今回のロゴマーク公募は、とても貴重で素晴らしい体験の連続でした。選考過程だけでなく、制作そのものも、紙の輪かざりというモチーフの持つ力に支えられながら楽しく取り組むことができました。選ばれたE案が万博のシンボルとして世に広がり、発展していくのを楽しみにしています。あらためて、関係者の皆さまに感謝いたします。
これからも私たちは、永くつづいていくものを目指して、グラフィックデザインに取り組み続けます。
宮垣 貴宏 須藤 史貴
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